鵺(ぬえ)鳴く星の夜

2010 / 5 / 31

今年も「星のカヌー」が始まった。
日没の山をカナディアンカヌーをかつぎ歩くこと30分弱。
素晴らしい金星の光にてらされて、星のカヌーが静寂の水面にすべり出す。
一同、素敵な雰囲気に溜息のスタートだ。

水位が上がりすぎていて、カヌーのとりまわしなどが少しやっかいだったが、それもまたよし。
水面にカヌーが出てしまえば、そこは誰もがおし黙ってしまうような、圧倒的な静寂と素晴らしい非現実の世界。
そもそもカヌーをすること自体が一般人には非現実。
それも夜に星や月とともに、など到底想像できない世界のはず。

日中は18度まであがっていた道東の気温も、日没後は5度までおちてくる。
いやがおうにも幻想的な水面に、吐く息が小さなモヤのように広がると、それはまるで妖精が現れるかのような時間となる。
カヌーを動かすパドルが水を切る音すら、まるで音楽のようだ。
ときどきレインスティックを動かすようにパドルを水面から静かに持ちあげ、水滴を静かに落としてみる。
優しく広がる水音。
カヌーのメンバー達も、誰も話したり、せきこみすらしない。
人と自然が調和し、一体となる時間。

突然、森の中からひゅーという口笛のような声。
鵺(ぬえ)だ!
あまりの幻想的な雰囲気に、この鵺の声。
それもひとつではない、あちこちから静かに、まるでささやくように、しかしはっきりと聞こえてくる。
ノクターン(夜想曲)とはまさにこの鵺たちの声ではないだろうか。
鵺の声がノクターンのコンサートだとすると、ステージがまた素晴らしい。
目前に悠々とそびえる山に針広混合林の森の稜線。
星あかりの照明は、ときどき優しい風でまたたく水面を映しだす。
カシオペアは森のすぐ上に横たわり、北斗七 星は天井から我々のいる水面の水をまさにくまんかという位置。我々が気づいたときには満天の星たちに囲まれていた。
ときどき降りそそぐ星には静寂をやぶり、一同皆、「流れ星!」を連発。

帰り道、明るい月明りに照らされはじめながら、森を歩き来た道を戻る。
とても、楽な行程とは言えないのだが、皆不満どころか笑みを浮かべ夜の森を歩いていく。圧倒的な静寂こそが鵺の声を音楽にする。
鵺の声は聴く人の感情を増幅させる。
悲しい人はいっそう悲しくなるだろう。
寂しい人はより1人を感じるはずだ。
しかし本当の音楽とは、そうやって人の心の奥まで届き響く。
心で感 じ聴く。
それは、聴き終わったあと、心をリセットしたり、また歩きだすきっかけや、勇気のようなものも与えてくれる。
おもいがけず自然がプレゼントしてくれた、星空の素敵なコンサート。
からだはしんしんと冷えてしまったが、満たされた心が、少しずつからだをほてらせていった。

ところで鵺とはなんなんだろう?
答えは簡単に調べられるはずだ。
この「鵺のノクターンコンサート」は6月いっぱいまで聴ける。


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