Blue River Crane

2011 / 1 / 5

釧路湿原を絵画や文で表現してきた佐々木栄松氏。
私も20代の時に彼の作品、とりわけイトウや湿原の釣りに強く魅かれた。
ガイドとして釧路湿原に入っていく私にとって、彼の時代(今から50年以上前)の湿原やそこに暮らす人や生き物たちには独特の輝きを感じていた。
その佐々木氏の作品でも、漆黒や群青を巧みに使い、湿原を描いた作品は強烈だった。昼間の湿原は一般的に様々な人たちに描かれてきたが夜の湿原はどうだったろう。
私にとって夜や闇の表現はいつのまにかBLUEの世界となっていた。
それは佐々木氏の夜の湿原を描く漆黒がBLUEで表現されていたから。
その闇に浮かびあがる純白のタンチョウと湿原の花々たち。
そして美しいBLUEで描かれた水辺。


今の私には写真による表現の機会がある。
夜の湿原やタンチョウの美しさ。
静かに流れる湿原の川に眠るタンチョウたち。
そこにはまるでグレートブリテン島に伝わる妖精たちが現れそうな気配がある。
そしてタンチョウだけではなく河岸のヤナギやハンノキたち、月、燦然と空に輝くオリオン座、遠くにミズナラ林の稜線。
これら全体の息吹のようなものを物語として表現したいと思う。
美しいということ。
しかし、その美しさの、内面というか本質をとらえていけたら。
それは一生かけても難しいだろう。
しかし少しずつでも近づいていくことはできるかもしれない。
美しさにも様々な要素がある。
厳しい冬の湿原の川の中にひっそりと立ち眠るタンチョウたちの姿。
厳しさと、変わらない自然の営みの中の美しさ。
逆にその厳しさの中に、凍らない川の流れの優しさや、川のなかに月光や星明りをさえぎるヤナギやハンノキたちのありがたさ。
それらの優しさに包まれるサロルンカムイ【アイヌ語で湿原の神=タンチョウのこと】の女神的な美しさ。
闇の中ではファインダーはもはや目安にしかならず、肉眼と気に頼らざるをえない。
そんな中、写真ではまだとらえられない素晴らしい光景を何度も見ることができた。
それは一晩中じっと川のなかで立ちすくんでいると思われるタンチョウたちが時々月明りのなかでダンスをしたり会話を交わしているのだ。
闇に浮かびあがる彼らの舞いや歌。
なんども私自身のカラダが電気を通されたようにしびれるような感動を腹の底から味わう。

私のガイドはこんな時間をお客様と静かに、熱く、共有できたらと強く思う。
様々なスタイルのガイドに、このような極めて静寂で個人的なものも魅力だろう。
お客様とこんな時間を過ごせたら。
何人かのお客様の顔が目に浮かんできた。


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