チロンヌップの子育て

2011 / 5 / 24

1日撮影できる時間がとれたので、迷わずチロンヌップ【どこにでもいる生き物の意味】の子育てに釧路湿原の中へと入っていった。
チロンヌップはキタキツネのことである。

カヌーで川をさかのぼり、眼をつけていた巣穴のあるところへ。
川づたいにすでに親キツネがエサをくわえて歩く姿が確認できた。
巣穴の近くにブラインドを張ってカメラをセット。
位置を決めて1時間後くらいに母キツネが戻ってきた。
2匹の兄弟子ギツネはすごい勢いで巣穴から出てきて母キツネに飛びついていく。
絶対の愛情とはこの光景を言うのだろうか?
2匹しか子がいないのは気になるが、この2匹もまったく性格が違い面白い。
優越がちゃんとあり、1匹はときどき巣穴からでてくるのだが、もう1匹は外に親がいるとき以外、絶対にでてこない。
面白かったのはハシブトガラスがときどき巣穴に遊びにくるのだが、子ギツネたちには脅威だ。
青白く光るカラスのくちばしに2匹で震えながらぴったり体を寄せ合ったり。
親のいない時間は本当に心細い時間だ。
だから親が帰ってきた時は大騒ぎ。
「さっきまで恐ろしいカラスのおばさんがきていて僕たちは本当に怖かったんだよ!」
とか
「ニュウナイスズメやオオジュリンたちがやってきて僕らに話しかけてくるんだ」
とか。
そして
「さっきからキラキラする丸いものがずっと僕らを見張ってて、ときどきカシャカシャと音がするんだよ。」

この日1番驚いたことがある。
それは2回目に母キツネがエサを捕りに出かけたすきに、ブラインドを5メートルほど前進させた。
母キツネが戻って子ギツネからの報告を聞いたのか、突然ブラインドの方へ向ってくるではないか!
あれよあれよという間に、なんと、私が隠れているブラインドの真横に来て、いきなり睨みつける。
「あんたは何者?
私たちに手出しはしないでしょうね!
これだけはしっかり言っておくわね!」
と言わんばかり。
あまりの度胸のすわりかたと絶対的な強さにの母キツネにあっぱれ。
これには本当に心を打たれた。

そして野生の健全なキツネの美しさ。
これにも完全に圧倒されてしまった。
眼でものを言うというのも良く理解できたし、納得した。
 
シャッターをきりながら何度も彼らの絶対的な愛情に溜息がでた。
私の心もカラダも喜びで満ちあふれ完全に満たされた。
近くの山にはエゾヤマザクラが咲き、空の青を映し出した川面がゆっくりと流れていく。
そこかしこでアオジ、センダイムシクイ、オオジュリン、タンチョウ、オオジシギらの声が響き渡っている。
7時間以上ブラインドに隠れていたのだが、日暮れにはエゾシカたちが胡散臭そうにブラインドの横を歩いていく。
ヤチボウズが沈む夕日と大きなハンノキと素敵なシルエットに浮かんだ。

こんな素晴らしい光景に出会えて嬉しさが何度もこみ上げてきた。
チロンヌップの子育ても素敵だが、それをとりまく釧路湿原の豊かさにも圧倒された1日でもあった。
いや、やっぱり母キツネの睨みと、恐れを知らない子供たちへの愛情と、守る強さ。
これが1番響いたかもしれない。


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