静寂と満月

2010 / 6 / 30

月食の夜から満月にかけて、森のカヌーツアーを連続で催行していた。
星空や満月のカヌー、といってもなかなか実際に体験してみないとわからない世界だろう。
しかし、このメニュー自体が一般的ではないところに、私のガイドの真髄の一部があると思う。
では実際はどんな時間が流れているのだろうか?

偶然にも満月の1日前に月食をカヌーから眺めることができた。
静寂と満月という状況に、カヌーが水面に漕ぎだしていく情景を想像してみてほしい。
もちろんパドルが水面をかく音は最小限。
まったく無音もダメ。
少しだけ水音が響く静寂。
ニジマスたちもときどきパシャリと銀色の波紋とともに静寂を高めている。
エゾアカガエルたちの合唱はエリア別だ。
各エリアごとにそれぞれ鳴いている。
そして突然鳴きやんだときに、圧倒的な沈黙が広がる。

煌々と輝く月光も素敵だが、カヌーが静かに進み、月がアカエゾマツやトドマツのいただきにかかりはじめたら。
それは本当にうっとりするみやびの美しさ。
この北の大地で「和」を意識できるときでもある。
しかしそれは、アラスカからユーコンやアムール川流域のタイガ地帯まで広がる、極北の美しい情景でもある。

お客さんも人それぞれ、思いを巡らせているようだ。
それはあえて聞いたりはしていないのだが、それぞれの静寂と満月でいい。
大切なのは自然との一体感。
そしてこの場や時間の流れに身をゆだねたり、息吹を感じていけるか。
不思議と怖いという感情に支配される人は少ない。
もちろん深い森の奥には独特の人を簡単に寄せない気があるのだが。
カヌーでときどき深い森の入り口まで近づいてみたりする。
森の奥は別世界のように動物や木々、植物、精霊の気配がする。

昼間はTシャツでも汗ばむ陽気も、日が落ちると一気に冷え込む。
15度の日較差は当たり前だ。
気がつくと真っ暗な水面に月光に照らされてモヤがたっている。
たなびく煙のように静かに幻想的な月明りとモヤが美しい。

ところどころモヤをくぐりながらカヌーはゆっくり進んでいく。
月食は終わり、煌々と満月がカヌーのガンネルの輪郭を照らしだしていた。
月明りにも北斗七星とカシオペアは燦然と輝きながら夜空を飾り、それは溜息のでる光景だった。
またニジマスがパシャリと跳ね、美しい、小さな波紋が広がった。


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